美建築ぶらり。竹田ひとり旅 その 5
美建築ぶらり。竹田ひとり旅 その 1
美建築ぶらり。竹田ひとり旅 その 2
美建築ぶらり。竹田ひとり旅 その 3
美建築ぶらり。竹田ひとり旅 その 4
続きでございます。
チェックアウトしてしまったので
車で行きましたが、
実際は、お散歩でも行けるような距離に、ラムネ温泉はあります。
のどかな温泉街の川沿いを行けば
これに出くわすんですから、
知らなかったらビックリしそうです。
建築は、藤森照信氏。
そして可愛いキャラクターは、南伸坊氏。
南伸坊氏といえば、おにぎりのようなお顔立ちの
イラストレーター。(←どういう覚え方?)
実は、藤森照信氏をちゃんと存じ上げず。
後で色々調べているうちに、
藤森照信氏と、宮崎駿監督のつながりを知るのです。
建築家・藤森照信さんと、宮崎駿監督。
(↑氏が、言いづらいので"さん"と失礼して書きかえます。)
あれ?私何かで、その組み合わせを見たことがあるぞ?
それもそのはず、私が武雄図書館内のTSUTAYAで購入した
『ジブリの立体建造物展 図録<復刻版>』に対談記事が
きっちり載っていたのです。
(見てたのに忘れてる。インプットしただけだと埋もれる良い例。)
藤森照信さんと宮崎駿監督。
藤森照信さんと、長湯温泉。
情報として、ただの点だったところが、
すごい勢いで線になったような感覚!
ラムネ温泉に、どうしてそんな錚々たる顔ぶれが関係しているのかは
「ラムネ温泉」の公式サイトのストーリーをご覧ください。
(勝手にリンクを貼れないので、スミマセン。)
試しに「藤森照信 建築」で検索して頂ければ
どんな建物を建てられた方かお分かりいただけると思います。
空飛ぶ泥船(茅野市美術館・仮設の茶室)や、
草屋根が圧巻のラ コリーナ近江八幡(菓子製造販売・たねやグループ)
丘の芝が屋根まで続いているようなねむの木こども美術館(静岡県掛川市)
その他色々、「あ~、もう可愛い‼‼」
どれも木や土や、緑を感じさせる
素朴で、自然で、有機的で、楽しい建物ばかり。
藤森照信さんの建てる作品に
宮崎駿監督や、養老孟司先生(養老昆虫館)が
心惹かれたのも頷ける話です。
そして、同じようにそれにツボッた(?)のが
何を隠そう元竹田市長(合併後の竹田市2~5代。2021年退任)の首藤勝次さん。
大丸旅館グループの5代目経営者でもある首藤さん。
(↑氏が、言いづらいので"さん"と失礼して。)
ある日、河原で炭酸泉を見つけたそう。
(そんな日本昔話のようなことがあるのかしら?と思ってしまいますが、
それこそが氏の座右の銘の【有由有縁】なんでしょうか。驚きです。)
炭酸泉は温度が高くなると、気泡が少なくなるようで
熱めのお湯が好まれる中、魅力を感じる人は地元でも少なかったのだとか。
ところが、首藤さん。
試しに無人で仮浴場をつくって、100円で解放したら
これが大人気。
(返す返すも、ホントに昔話みたいな展開。)
ちゃんとした建物をつくるべく、色々探していたら
知り合いの静岡県議会議員に教えられたのが
藤森照信さんの「浜松市秋野不矩美術館」。
すっかり気に入って、設計を依頼したのだとか。
藤森照信さんも、最初は「河原に温泉?僕がやるの?」と思っていたようですが
実際にご本人に会ってみると、観光カリスマ(←国土交通省選定)で、
長湯に象設計集団(!)に依頼して【御前湯】を建てていた経緯もあって
その温泉に対する熱意に動かされた等のいきさつがあったようです。
(これまでの話、『藤森照信 読本』etcからかいつまんで書いております。微妙な差異あればスミマセン。)
そうして、小さな温泉街にできた藤森建築がこちら!
受付のある待合兼美術館棟。焼杉の黒と、漆喰の白が地味で派手な、忘れられない外観
左奥に共同浴場棟と、真ん中に家族湯棟。オカメザサの植栽の通路を通っていく。
各棟のとんがり屋根には松の木!これもあると無いとで雰囲気が全く違う。遊び心がニョッキリ生え出ている。
待合兼美術館から中庭、共同浴場を見る。夢の中にいるような不思議な光景。
やたらめったらカッコいい犬の像。ダンディー。
ここで猫好きの皆様に朗報です。
実はこのラムネ温泉。数匹の猫さんが住んでいる。
そのうちの一匹。
入り口付近で会ったのですが、知らん顔。
「観光客なんか、ぎょうさん来るのにイチイチ相手しとられんわ~」
そんな感じで、完全スルー。
あら、さみしい。
仕方ない。猫好きは、つれない猫さんには深追いしないのが礼儀です。
ところが、写真を撮っていると何か視線を感じる。
ありゃ。さっきのコ。
どうも、開けてくれと言っている。
開けると、クールにさっさと行ってしまいました。
藪の中から物音が。捜査一課の猫さん、張り込みをすることに決めたようです。
共同浴場内は、さすがに撮影できなかったのですが、
脱衣場から浴場に入るのに、かなり低い入り口となっています。
藤森照信さんの本によると、配置とか外観はすんなり決まったのだとか。
ただ、内部がなかなか決まらない。参考にできるような空間体験がないという。
そこで参考になったのが首藤さんのこどもの頃の話。
なんでも、ラムネ温泉に入る時、
炭酸ガス中毒を防ぐため、ローソクをもって入ったらしい。
ローソクの火が消えると風呂から出るようにしていた。
その暗がりの中灯るローソクの灯りが懐かしい、と。
狭い空間、火、湯気=まさに茶室じゃん!
実際に入浴と茶事が一緒になったことは歴史的にもあったので、
イメージが固まったとのこと。
したがって、共同浴場は茶室のような低い入り口と、
中には小さな暖炉もある構造に。
たしかに、低い入り口には別世界に入り込むような心地がしました。
外界とは一線を画して、ひっそり隠れるような感じ。
実際に暖炉に火がくべられていたわけではありませんが、
(あぁ、あの小さな窪んだ空間はそのためのものだったか)と認識します。
内湯が42度、外湯が32度とのことですが、
気温の影響もあってか、内湯もぬるめな印象。
B・B・Cに泊まった際、その日のお風呂を、テイの湯に行くか、ラムネ温泉に行くか迷ったのですが
ラムネ温泉には体を洗うスペース等もないので、洗髪のことを考えればテイの湯で正解でした。
ちょっと外湯もいきなりは冷たそうだったので、サウナに。
ところが、入れども入れども、全く汗をかけない私。
持っていたロッカーのカギに触れると
「・・・ッアッチ!」
これはマズイ。汗はともかく、出ないと干物になっちゃう。
干からびかけた状態で、外湯へ。
はぁ~。気持ちがええ!
小さな銀色の泡が、後から後から体に着きます。
払っても払っても、ウロコのようにびっしり。
快晴の真っ青な空と、芝生に立つ、銀色のひまわりのオブジェ
ぷくぷくのラムネの湯。
爽快な心地よさ。
良い建物、良いお風呂でした!
せっかくなので、美術館棟も覘くことに。
大丸旅館は多くの文化人とつながりも深く、川端康成をはじめ
多くの交流を感じさせる資料がありました。
その一角に置かれた、段ボール。
近寄ってみると
そんなとこ入ってたら、-18度でクロネコさんに運ばれかねんよ?
睡眠業務真っ最中のにゃんこさん。
温泉棟に比べ、人通りも少なく静かで快適。
あまり可愛くて、頭をなでると、ゴロゴロと喉を鳴らしてくれました。
竹田市の人口は2万人ほど。県北の中津市の4分の1くらいの人口です。
それでも、その人口に対して錚々たる建築家の作品が見られる点では
美建築密度がめちゃ高いとも言えます。
こちらは、首藤勝次さんのホームページにて、PDFで竹田と建築のことが詳しく書かれておりますので、興味のある方はご覧ください。
長湯だけでも、他にも
クアパーク長湯。設計は世界的建築家、坂茂さん。
東日本大震災の時、紙の筒と布で避難所のプライバシーを確保した話は有名です。
1Fが水着で入れるバーデゾーンと50mの歩行浴と温泉プール。
2Fに温泉、他にレストランや宿泊施設も備えた複合施設で
周りの自然に溶け込むように
木をふんだんに使って設計させています。
もう一つ。
私が長湯に関心を持ったのがここ。
御前湯です。
こちらは象設計集団の作品。
今はなき、私の大好きだった由布院美術館の建物を設計をしたのも
象設計集団でした。
象設計集団の由布院美術館。今は取り壊されて観ることができない。
由布院美術館に関しては、昔書いた記事がありますので、良かったら。
なんと、もう10年近く前の記事ですが・・・。
由布院美術館のことを書いた記事→「自由設計とかけて、焼肉バイキングと、とく?」
題名からは想像つきませんが、書いております↑
あ~。
とても、一泊二日じゃ見て回れなかった。(余計なロスもありましたし。)
今度はぜひとも長期滞在は無理でも、2,3泊して
住んだような気持ちで、じっくり色々見て回りたい。
こうして書いている間も、私はなんだか無性に長湯に帰りたいのです。
首藤勝次さんのホームページに
【有由有縁】という言葉がありました。
川端康成の言葉らしいのですが、
理由があって、今の縁があって、それを大事にしていく。
私から見れば、首藤さんが河原でラムネの湯を見つけて、
それが藤森照信さんの建築につながっていくのは
水底から、キラキラ光る水面に
キラキラ光る魚が泳いでいるのを見ているような。
まぶしくて、まぶしくて、
とても手が届かなくて、
憧れの夢のような世界。
そんな風に、熱量と想像力を持って
上下の差もなく
共感しあう仲間と
ワクワクしながら
ものづくりができる楽しさは
うらやましくて、キラキラ。
またいつか、そのキラキラに会いに
長湯に行きたいと思います。
点と点が、線になって何かにつながるように
私のワクワクが、次の何かにつながりますように。
おばちゃんの美建築をめぐる竹田ひとり旅。
今回はこれにて、おしまい。